諸外国の少年野球事情について

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記事の目次

長く監督/指導者として少年野球チームで従事していると、親御さんの仕事関係で、海外から日本に来た/日本から海外に行くというケースにしばしば直面します。そんな場合に備えて、諸外国の少年野球事情についても、一応知識として備えておく必要があります。

“軟式野球”というのは日本発祥のスポーツです。従って、“海外から日本に来た”子は初めて軟球に触れる前提でチームに迎える必要がありますし、“日本から海外に行く”子には硬式で野球をやる心構えを持たせてチームから送り出す…等の配慮が必要です。

少年野球の世界標準は軟式か硬式か

“ベースボール”が普及している欧米諸国では、当然の事ながら硬式野球が基本だと考えてください。アメリカにも一部軟式野球を行っている地域がありますが、基本的には少年野球でも硬式野球が主流です。

中南米で野球が盛んなベネズエラ/キューバ、アジアの野球先進国と言われる韓国/中国/台湾等においても、小学生から硬式野球が基本です。

そんな中、最近では世界各国で軟式野球が紹介され、普及活動が進んでいます。特に青少年の健全育成という見地から設立された、公益社団法人少年軟式野球国際交流協会(IBA)という団体が有名です。そしてこのIBAが主催する少年軟式野球の世界大会が、毎年日本で開かれています。この大会には、オーストラリア/ブラジル/パラグアイ/ペルー/中国/台湾/シンガポールなど世界各国の軟式野球チームが参加しますが、日本人がコーチとして海外で軟式野球を教えているチームがほとんどのようです。

海外に引っ越すのであれば、その前にこのような世界大会を観ておくことで、当該国における少年野球のレベルを把握しておくといいでしょう。

アメリカにおける少年野球の選手起用法

私は過去に、仕事の関係でアメリカの西海岸(オレゴン州ポートランド)/東海岸(ワシントンDC)に長期出張した経験があります。折角の機会だったので、それぞれの地区で少年野球チームの見学にも行きました。どちらも硬式野球でしたが、アメリカの多くの少年野球チームがそうであるように、選手の数を各チーム12~13人程度に制限していました。そして、必ずその全員を毎試合ベンチ入りさせていました。また、守備は当然9人で守りますが、打順はチーム全員で回すのが“アメリカ流”のようでした。

アメリカからの帰国子女がわがチームに入団した場合、当然の事ながらまだ連係プレーが出来ないので、大抵試合に出られずにベンチを暖めることになるのですが、その状況に対して、アングロサクソンの親御さんたちが“なぜうちの子は試合に出ない?”と猛烈に抗議してくるのには、こうした背景があるからと考えられます。

彼らにとって、“少年野球の試合は、全員出場が当たり前”なのです。

チーム移籍について

アメリカ人と日本人とでは、“チームに所属する“という意識についても決定的に違います。日本では、よほどの事情がない限り一度入団したチームを変えることはなく、そのチームメート達を大切にし、みんなで一緒に頑張ろうとしますが、アメリカでは少年野球といえども、自分自身が最も活躍できる場所を求めてチームを転々とします。大人になったアメリカ人が何度も転職するのは、こうした幼少期の体験が根底にあるからで、終身雇用が基本の日本人とは”人生の第一コーナー“から様々な点で違うようです。

最近テレビのドキュメント番組でよく目にする、“トライアウト”というシステムがあります。日本ではピークを過ぎたプロ野球選手達が“背水の陣”とばかりに大勢登場しますが、アメリカにおいては強い少年野球チーム(トラベル・チーム)でこれが頻繁に開催されています自分のチームの4番バッターやエースピッチャーが、トライアウトを経て次のシーズンにはライバルチームで中心選手として登場することもザラなのです。こうした環境なので、チームのコーチから『あそこはいいチームだから、君の息子はトライアウトを受けたらどうだ?』と勧められたり、息子がトライアウトに合格したので、お父さんコーチ共々去って行く、というのも日常茶飯事のようです。また、チームに残されたメンバー達も『あいつには裏切られた』『一人だけ抜け駆けしやがって』などという感覚は全くなく、『あのチームに合格するなんてすごいなぁ頑張れよ!』というのが普通の感覚なのです。

指導の視点について

日本とアメリカでは、少年野球における指導方法もかなり違います

たとえばチャンスで凡退した場合、日本であれば「Don’t mind!=ドンマイ(気にするな)」と声をかけますが、アメリカの指導者は「Good try!(よく挑戦した)」と言います。仮に三振したとしても、見逃しでなく積極的で力強い空振りであれば「Good try!」という評価なのです。

またバッティングについては、「強く・遠くに飛ばすこと」が何よりも重んじられます。仮にゴロを打てば簡単に1点取れるケースでも、外野にフライを打てばたとえ点が入らなくても応援席は大盛り上がりです。間違っても、「転がせ」などと指示を出すコーチはいません

失敗しても挑戦したことへの評価が高いのが“American spirits”で、この「Good try!」の精神は小学生だけに留まらず、大人になるまで続くようです。

日本の少年野球では、野球を通して友情/チームプレイ/礼儀/挨拶などを学んでいくことが重要視されます。

一方アメリカにおいて、野球は“教育”ではなく、あくまで“スポーツ”です。従って「スポーツマンシップを尊重しろ」とか、「審判には敬意を払え」と教えはしますが、何よりも“try”することを重要視しているのです。

アメリカで子供に少年野球をやらせる場合の費用について

日本では、所属チームに毎月2,000~3,000円程度の部費を払えば、お子さんに少年野球をやらせることが出来ましたが、アメリカではそうはいきません

まず、アメリカは車社会なので、子供の送迎に毎回必ず親が協力しなければなりません。ガソリン代だけでなくその拘束時間まで考えると、これはかなりの負担です

そして、多くの強いチームにおいては保護者のお父さんコーチが指導するのではなく、コーチ職で生計を立てている“プロのコーチ”を雇います。そのコーチにみんなでお金を払って、野球を教わっています。費用はワリカンで、私が見学したチームでは、『プロのコーチに毎回1時間当たり100ドル払っている。』と言っていました。

日本の硬式野球チームもかなりお金がかかりますが、親御さんの負担はどちらも相当なものになります。

まとめ

残念ながらアメリカ以外の国で少年野球チームを観たことはありませんが、恐らくはアメリカのチームとはまた違った衝撃を与えられるのでしょう。

“健全な青少年育成の一環”として日々子供達に接する日本の少年野球チームの指導スタイルは、世界に誇れるものだと自負していますが、“郷に入れば郷に従え”というスタンスも生きていく上では必要です。“強いチームを渡り歩く”のもいいでしょう。その中で、日本が誇る“軟式野球”のスタイルとともに、“Japanese spirits”が世界中に浸透したら、とても素敵な事だと、常々私は思っています。

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