少年野球における間違った常識

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記事の目次

一口に“少年野球に関する常識”といっても、お母さん達には“知識”すら少ないので、ご家庭でお子さんに対して“間違った常識”を振りかざすとすれば、お父さんとかお爺ちゃんでしょう。
そして恐ろしいことに、彼らはあたかも“巨人の星の星一徹”が息子の“星飛雄馬”にしたように、上から目線のスパルタモードで子供や孫にアプローチします。
それも“木のバットを持つ打者に対して、投手が変化球を投げる時代”における少年野球しか経験がないにもかかわらずです。
そして、その時代の“歪んだ常識”を今の子どもたちに半ば強引に、しかも我流であてはめようと繰り返し試みます。

そんな状況に対して我々指導者が特に恐れているのは、チームの練習で指導者が“白”と教えた内容を、家に帰ってお父さんやお爺ちゃんが“黒”と覆す事です。
それによって子供達は大混乱して訳が解らなくなり、最終的に野球が嫌いになってしまう事です。
本人達は良かれと思ってコーチ気取りで教えていることが、お子さんやお孫さんを著しく混乱させ、レベルアップを阻害するばかりか、子孫の運命まで変えてしまう可能性があるという事です。

ここではその“間違った常識”の代表例を、いくつか御紹介しましょう。

ヘッドスライディング

“打者走者は1塁へ駆け抜けるより、ヘッドスライディングをする方が速い”という常識があります。

まず小学生レベルでは、駆け抜けるのより“遅い”です。なぜなら、ヘッドスライディングしようとすると、大抵の小学生はベースの手前で減速してしまうからです。

高校野球以上のレベルになっていれば、確かに1塁到達に至るスピードはヘッドスライディングの方が駆け抜けるよりも速いでしょう。
しかし、プロ野球の試合を観ても1塁にヘッドスライディングする選手はほとんど見かけません。
イチローなどは“絶対にやらない”とテレビで発言しているのを観たことがあります。これはなぜでしょうか。

私のチームにおいても、ヘッドスライディングは牽制球に対する1塁への帰塁の場合しかやらせません。さらにそのランナーがピッチャーの場合は、それすらさせません。
その理由は簡単です。“危険だから”です。

小学校高学年といえばすでに成長期に入っており、子供達の骨/筋肉/関節は時々刻々と伸びていきます。
その状況でヘッドスライディグをさせると、脱臼/骨折/突き指をする可能性が格段に高まります。

さらに小学生の場合、1塁手の守備スキルもかなり心もとないので、指が踏みつけられる危険があります。
悪送球を捕ろうとしてバランスを崩した1塁手が、ヘッドスライディング後の肩に落ちてきて、打者走者が脱臼したこともありました。

まだあります。打者走者の1塁へのヘッドスライディングが致命的にまずいのは、内野手から1塁への送球が大きく逸れて2塁・3塁へと進塁できるチャンスが発生した場合、その“初動”が大きく遅れることです。
まずヘッドスライディングした瞬間は、悪送球であることが解りません。1塁コーチャーの“回れ回れ”という声を聞いて初めて、ムックと立ち上がります。
そして慌てて立ち上がった為、その後1・2塁間で転んでタッチ・アウト!となってしまった事例を何度見たかわかりません。

これでもまだ貴方は、“打者走者の1塁へのヘッドスライディング”がいいと思いますか?

ボールを上から叩け

かつて、お父さんやお爺ちゃんの世代は、“ダウンスイング崇拝”が浸透していました。
これは、あの世界のホームラン王である“王貞治”が荒川コーチに指導を受けながら、ダウンスイングで一本足打法の素振りをしている映像が、世間に広く出回ったことが原因と言われています。

しかし、ここには大きな勘違いがありました。
確かに王貞治の荒川道場における素振りはダウンスイングでしたが、868本打ったホームランのほとんどは綺麗なレベルスイングで放たれたものです。
荒川コーチは、王の極端なアッパースイングを矯正する為に、徹底的にダウンスイングで素振りをさせただけなのです。

まして、サイドスローやアンダースローの少ない少年野球では、ほとんどの投球がバッターの目線より高いところから放たれるので、“少年野球におけるダウンスイング”は物理的にも理に適っていないのです。

肘は高く上げろ

次はピッチングフォームについてです。

これは、お父さんやお爺ちゃんばかりに向けた話ではありません。
高校野球やプロの指導者でさえも、“肘を高く上げて投げろ”という間違った常識の基で指導をしています。

あの桑田真澄が小学校5年生の時に、元プロ野球選手から「右肩を下げず右肘を高く上げてから投げなさい」と教わりましたが、その通りにしても全くうまくいきませんでした。
逆に右肩を下げて投げたら、力のあるボールを投げることができました。

その後あのPL学園に入学しますが、そこでもピッチングコーチに「右肘を高く上げる投げ方に変えなさい」と言われます。
その結果どうなったかといえば、ボールが行かなくなったあげく、ピッチャーをクビになりました。
仕方なく外野手になり、右肩を下げる投げ方に戻したらそれが良い投げ方になり、臨時コーチから再びピッチャーに戻され、甲子園で優勝投手にまでなりました。

そして、栄光の巨人軍に入団して1年目。先輩ピッチャーから、また「肘を高く上げて投げろよ」と言われました。
名球界入りするようなプロの大先輩から言われたので渋々それに従ったところ、結果が出ずに「もう桑田はピッチャーでは通用しない」とマスコミに叩かれました。
途方にくれていた桑田を救ってくれたのが、“8時半の男”と呼ばれたあの宮田征典氏でした。
シーズンオフにたまたまジャイアンツ球場を訪れていた宮田氏から、「高校時代のフォームの方がいいんじゃないか」と指摘され、連日キャッチボールにもつきあってもらいつつフォームを高校時代のものに戻しました。
その結果、沢村賞獲得をはじめ、生涯成績173勝という輝かしい成果を残した大投手として、桑田真澄は成功を勝ち得たのでした。

プロのピッチングコーチでも間違うような危うい指導を、小学生にしてはいけません。
才能の芽を摘み取ることがないように、その子に合った投げ方をさせましょう。

まとめ

お父さんおじいちゃんの間違った常識の話を中心にしましたが、残念ながら指導者の中にも同様の認識誤りを持ったまま子供に指導している人がいることは否めません。
しかし、最終的に貧乏くじを引くのは子供です。
指導者の心得として、“間違っている指導法に気付いたら、意地を張らずに修正する謙虚さも必要”ということを最後に述べておきます。

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