盗塁練習のポイント
“盗塁”は“塁”を“盗む”と書きます。逆にそれを阻止しようとする守備側のプレーは、“盗塁を刺す”とか“ランナーを殺す”と言われます。表現は物騒ですが、盗塁に関わるプレーはそのくらい試合の行方に大きな影響を及ぼすということを意味しています。
このように、ベースボール発祥の時分から、盗塁の重要性は粛々と語り継がれているのです。
入団したてのちびっ子に盗塁について聞くと、“走ることくらいできるよ”と大抵の子が言います。“2塁に向かって速く走ればいいんだろ”とも言います。これは、ある意味当たっていますが、ほとんど間違っています。
今は昔、1964年に陸上100メートルにおいて10.1秒という日本記録で走った、飯島秀雄というスプリンターがいました。その後50年以上経過して、ウエアやスパイクなど目覚しい改良を経た今の日本記録がまだ10.0秒であることを考えれば、恐ろしいスピードを持った選手だったことがわかるでしょう。
彼は、“足を活かした仕事がしたい”との想いから、かの有名な永田オーナーの肝いりでプロ野球選手としてロッテに入団しました。
そして、“日本一速い男”は3年間プロ球界でプレーしましたが、盗塁成功23、盗塁死17、牽制死5という惨憺たる結果で、野球人としての人生を終えました。飯島は1軍の打席に立つことも守備につく事もない代走に特化した選手で、その練習だけをしていたのにこの結果なのです。
この時、“盗塁はただ速く走ればいいというものではない”ことが、いみじくも日本中に証明されたのでした。
反射神経とリードの姿勢の練習(初級編)
盗塁が成功する要素は、
- ピッチャーの牽制技術への対応
- キャッチャーのスローイングスピードの判断
- ランナーのスピード+α
となります。
ここではランナーにスポットを当てて、(3)について説明します。
スピードを上げるには、脚力を鍛えたり、走るフォームの矯正をするのが一般的ですが、グランド事情から常に短い時間での効率化を強いられている少年野球チームの練習において、そんな基礎的なことばかりをやっている余裕はありません。
ちびっ子は、まず“ゴー・バック”の練習をします。
1塁線上に1塁付近からライトポール方向に向かって5人程度のちびっ子を一列に並べ、コーチが合図を送ります。実際にはピッチャーがホームに向かって投げるのか牽制球を投げてくるのかという“二者択一の感性”を鍛えるのですが、ちびっ子にはまず“状況に応じて素早く反応する”反射神経を養うことと、具体的なリードの姿勢を教えます。
“リー・リー”というコーチから出される合図の間はリード。その後“ゴー”と言われたら2塁方向へ走り、“バック”と言われたら塁(1塁線)に戻る…という単純なことを、繰り返し練習します。この練習でちびっ子は、“ゴー”の場合は左足に力を入れる必要があり右ひざを2塁方向に素早く捻る必要があること、“バック”の場合には右足に力を入れなければ戻れないことを体感します。
大胆なリードの練習(中級編)
“ゴー・バック”の練習を積み重ねることで、帰塁についての判断力が鍛えられました。
次は、前述の(3)ランナーのスピード+αにおける“+α”にあたる“大胆なリード”の練習です。
キャッチャーの肩がそれほど出来上がっていない小学生の試合では、大きく“リード”が取れれば、もう盗塁成功したのも同然です。ところが、そこにはピッチャーの牽制球という壁が立ちはだかります。ピッチャーの牽制球技術は学年に応じて上がりますが、それに応じてランナーが“牽制のクセ”を見抜く技術も上がっているはずで、ここから先は技術と技術のぶつかり合いです。
また、“大胆なリード”をとるためには、ヘッドスライディングでの帰塁が不可欠で、その練習もこの頃から鍛えます。中学・高校野球に進めば解りますが、足で帰塁しているランナーは“もっとリード出来るだろう”とベンチからすぐに叱責されます。
基本的なリードの距離は“身長+手の長さ+1~2歩”が基準です。単に寝そべっただけでも“身長+手の長さ”の程度の距離は戻れるので、強いチームは“+1~2歩”の部分を“+3~4歩”にする練習を積んで試合に臨みます。
ヘッドスライディングでの帰塁で注意すべき点は、“立ち上がる時に必ず足でベースを踏んでから手を離す”ということです(一時的に手足両方がベースにタッチしていることになります)。ちびっ子の試合では、これが徹底されておらずに起き上がる時に手も足も離れてしまい、タッチされてアウト!ということが時々見られます。
“帰塁の際は1塁ベースのライト側にタッチする”というのも非常に重要です。1塁手のタッチから最も遠い帰塁になるからです。また、小学生の場合ファーストの守備も怪しいので、帰塁したランナーの手がスパイクで踏みつけられるということもたまに起こるので、この危険に遭遇する確率も低下させます。
このように危険も伴うヘッドスライディングでの帰塁なので、我がチームでは、ピッチャーにはさせません。この辺りは、勝敗云々というよりも、指導者の安全管理の意識として徹底しておきたい部分です。
その他、この時期には“盗塁をやめる”技術も学びます。
盗塁のサインが出ているにもかかわらず、ピッチャーの牽制が巧く“逆をつかれて”一旦帰塁の体制になることが小学生の試合ではよくあります。にもかかわらず真摯な小学生は“盗塁のサインだから盗塁しなければ”と思いこみ、完全にアウトのタイミングでもスタートを切ってしまうことで、2塁到達前にあえなく憤死ということがよくあります。
折角のチャンスを水の泡にしないために、“たとえ盗塁のサインが出ている場合でも、逆をつかれた場合は盗塁しないこと”を徹底します。
ディレードスチールの練習(上級編)
チームが円熟期に入った6年生の春あたりから、“ディレードスチール”の練習をします。
これは、ピッチャーが投げて、キャッチャーミットにボールが収まったのを確認してからスタートを切る盗塁です。
相手のキャッチャーが怠慢で膝をつけてキャッチングしている場合や、セカンドとショートの2塁へのカバーリングが遅かったりする場合など、相手チームに隙がある場合に仕掛けますが、これはかなりの確率で成功します。
またこの“ディレードスチール”の成功は、単なる盗塁成功にとどまらず、相手チームが“スキだらけ”であることを球場全体に対して証明することにもつながります。屈辱的な結果を見せつけることで、敵のベンチを含めたメンタルを攻撃することに最も大きな意味があるのです。同じ考え方から、“キャッチャーの返球が山なりだったり、雑だったりする”際はそこをディレードスチールで狙うこともあります。
また“ローボールスチール”という、“明らかに低めの投球でワンバウンド確実の軌道の場合は走ってよい“というサインもあります。我がチームでは、これはサインプレーではなく、選手の自主判断に任せています。
まとめ
今は、ヤクルトの山田やソフトバンクの柳田に代表されるように、打つだけではなく盗塁もできる選手が花形としてもてはやされます。
小学生においても盗塁成功率が高い子はいますが、“小学生の盗塁成功のカギは脚力だけではない”ということを、ここでは抑えておいてください。